食品の日持ちに関わる「水分活性」を詳しく解説、保存性を高める水分活性の目安は?

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こんにちは、管理栄養士・料理家 ひろのさおりです。

水分活性」という言葉をご存知でしょうか。

食品の日持ちをよくするためには、食品中の水分管理がポイントとなってきます。
食品の保存性や安全性に大きく影響する微生物は、水分があれば増えることができるからです。

ですが、ただ単に水分の「量」を管理すればよいというわけではありません。

乾燥品やドライフルーツは水分をとばすことで保存性を高めますが、塩漬けや砂糖漬け製品は塩や砂糖を加えることで保存性を高めています。

水分量が変わらないにも関わらず保存性が高まる理由には、水分活性が関わっています

今回は、食品の日持ちに関わる「水分活性」について詳しく解説します。

水分活性とは?

自由水と結合水

水分活性は自由水の割合を表す指標のことですが、水分活性を理解する上でポイントとなるのが、自由水・結合水です。

食品中の水分は、自由水と結合水に大きく分けられます。

自由水とは、食品成分と結合せず、蒸発して気体になったり液体に戻ったりと自由に動き回れる水分のことです。自由水は、微生物が活動し増えるために必要です。

結合水とは、食品中の塩や砂糖などの食品成分に引きつけられる水分のことです。食品成分と水は、水素結合でゆるく引き寄せ合っている状態です。

わかりやすく図にしてみました。

食品の水分量を変えなくても、塩や砂糖を加えることで結合水が多くなり自由水は減ります。
自由水が減るということは、微生物が活動し増えるために使える水が減るということ。

水分活性は、自由水の割合を表す指標なので、水分活性が低いほど微生物は活動できなくなり保存性は増すのです。

水分活性の仕組み

水分活性は自由水の割合を表す指標のことですが、その仕組みを詳しく解説します。

水分活性は英語ではWater Activityで、Awと呼ばれることもあります。

以下のように水分活性(Aw)は、食品の蒸気圧と、その温度下での水の蒸気圧の比で表されます。

同じ温度の条件とすると、水の蒸気圧は一定の値のため、食品の蒸気圧の大きさがAwに直接関わると言えるでしょう。
一方、食品の蒸気圧とは、蒸発したり液体に戻ったりしている自由水の圧力のことで、これは自由水の量で変わります。

自由水が多いと蒸発したり液体に戻ったりする自由に活動する水分子が増えるため、食品の蒸気圧が高くなりAwは高い数値となります。

逆に結合水が多く自由水が少ない場合、水は蒸発しにくく自由に動きまわりにくいため、Awは低い数値となります。

微生物は食品中の自由水を利用して増えるので、食品の保存性を高めるためには自由水を少なく、水分活性を低くすればよいですよ。

水分活性の仕組み

自由水>結合水Aw高い微生物が増えやすい保存性↓
自由水<結合水Aw低い微生物が増えにくい保存性↑

保存性を高める水分活性の目安は?

水分活性を低くすれば微生物が増えにくく食品の保存性は高まりますが、どの程度の数値にすればよいのでしょうか。

具体的な数値を定めるにはまず、微生物が増えやすい水分活性の範囲を知っておくとよいですが、それは微生物の種類によっても異なります。

食品を腐敗させる微生物として細菌・酵母・カビがありますが、腐敗以外に食中毒をひきおこす細菌についても考慮しましょう。※食中毒は細菌を原因とするものの他に、原虫・寄生虫・化学物質などを原因とするものもあります。

水分活性と微生物の発育の関係についての表を引用します。

出典元:角野 猛著「微生物の発見と性質について (2)」日本調理科学会誌2011 年 44 巻 1 号 p. 88-93 (p.89左下の図)

一般的なカビ・酵母・細菌などであれば、水分活性を0.8以下に抑えることができればよいでしょう。

ただし、塩や乾燥、浸透圧に強い微生物は0.8以下でも増えることができるため注意しましょう。
保存性を高める水分活性のめやすは、0.6以下であれば微生物は生存していても増えることはほとんどないと言えます。

微生物が増えやすい水分活性の範囲を避けることで、食品を腐敗させるカビや細菌、食中毒の原因菌をおさえ、日持ちをよくすることができますね。

実際には、食品すべてを水分活性0.6以下にすることはできないので、水分活性の他にも、温度や酸性度(pH)の管理をおこなうことで保存性を高める工夫がされていますよ。

水分活性と食品の種類

それぞれの水分活性と食品の種類、保存の工夫についてご紹介します。
水分活性は食品ごとに異なるためおおよその値となっていますが、参考にしてみてください。

Aw0.95以上

精肉・鮮魚・野菜などの生鮮食品はAw0.95以上と高くpHも低くないため、微生物が増やすいです。そのため、4℃以下で保存することで微生物が増えるのを抑えています。

果物も水分活性はこの範囲に当てはまりますが、酸性に傾く為、精肉・鮮魚に比べると日持ちします。

Aw 0.8~0.95前後

具体的な例としては、パン・かまぼこ>チーズ・生ハム>サラミ・羊羹>米・豆類の順に水分活性は低くなります。

冷蔵保存が必要なもの、常温でも保存でき賞味期限が短いもの、包装を工夫して保存性を高めているものなど様々ですね。

Aw 0.7~0.8前後

ジャムや味噌・醤油などは中間水分食品といって、水分活性に加えて酸性化をする(pHを下げる)ことで保存性を高めています。未開封で常温保存できるものがほとんどです。

Aw 0.65前後

ドライフルーツ、干しエビ、小麦粉などが該当します。

水分活性を低めることで保存性を高めているのは乾燥品や塩蔵品です。乾燥品は水分自体を少なくすることで、塩蔵品は塩を多く入れることで水分活性が低くなり、微生物が増えないようにしています。

Aw 0.6以下

キャンディ、ビスケットなどが該当し、湿気やすい食品であれば乾燥剤とともに密封するなど、保存状態の工夫がされていることが多いです。

冷凍品の水分活性

ちなみに、冷凍品では温度が低いことだけでなく、水分が氷ることで自由水が少なくなり、水分活性が低くなっていることでも保存性が高まっています。

水分活性は温度やpHなどと組み合わせよう

水分活性のベストな値は、それぞれの食品で様々ということが分かりました。
水分活性のみに注目すれば安全なのは0.6以下ですが、キャンディやビスケットのような硬いものに限られてしまいますね。

水分活性が高くても、温度やpHを管理することで微生物の増殖を抑えている食品は多いです。
湿気やすい乾燥品であれば乾燥剤とともに密封するなど、保管中の水分活性の管理も工夫されていますよ。

また、水分活性が0.6~0.8であれば塩・乾燥・浸透圧に強い微生物のリスクがありますので、脱酸素剤とともに密封するのも方法ですね。※微生物は酸素があるところで増えます

水分活性・pH・保存温度・包装の密封性・ガス置換・脱酸素・微生物汚染の予防など、いくつかの保存技術を組み合わせて保存性を高めることを、ハードルテクノロジーと言います。

水分活性は保存技術のひとつであり、水分活性が高いものでも、他の方法と組み合わせることで、日持ちをよくすることができます。

水分活性の規格や保存条件が定められている食品もありますので、参考にしてみてください。

食品別の規格基準について(厚生労働省)

また、以下の手引書にも水分活性の記載があり、目安となるでしょう。

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(厚生労働省)

まとめ

いかがでしたか。食品の日持ちに関わる「水分活性」について解説しました。

水分活性とは、食品中の自由水(食品成分と結合せず自由に動き回れる水)の割合を表す指標のことで、食品の蒸気圧と水の蒸気圧の比であるAwで表されます。

微生物は自由水を利用して増えるため、水分活性を低くすることで日持ちをよくすることができますよ。

微生物によって増殖可能な水分活性の範囲は変わるため、それぞれの食品で増えやすい微生物を考えて保存温度・pHなどを工夫してみてください。

食品の保存性を高めるために水分活性は重要なポイントですが、他の保存技術と上手に組み合わせるとよいでしょう。

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